こんにちは 社内で写真撮影など記録を担当している【こ】です。
製造した装置の撮影などを担当していますが、今回は、顔写真の撮影とビザ写真の製作について解説したいと思います。
弊社の製品の多くが海外へ納められますので、据え付け・立ち上げに社員が渡航します。その際にビザ申請用の写真が必要になるので、社内で製作できる体制となっています。急ぐ場合がありますし、現場の社員が町の営業写真館へ行って撮るには時間が惜しいからです。データがあれば日本のパスポートや資格取得用などにも流用できます。
さて、中国ビザを例題に説明します。ちょっと専門的なお話も出て来ますがお付き合いください。
中国ビザ用の写真は最近仕様が一部変更され、写真サイズ・頭部サイズや白背景指定であることは従来と変わりませんが、「メガネ禁止」「おでこ隠し禁止(眉をはっきり出す)」になりましたので、顔写真の再撮影が必要な社員も多数います。国によってビザ用写真の仕様は異なり、インドネシアだと背景が赤指定(ホントに真っ赤っか)になります。日本のパスポート用は、背景色の指定はありませんが、私の場合は無難なスカイブルーを使っています。
撮影は、遮光が可能な広い会議室の天井照明を消灯し、照明セットを組んで行います。外光や室内照明の光が混じると、照明装置(フラッシュ)との色温度の違いが出来てしまうからです。
私の場合は、メインライトとしてソフトボックスに入れた300Wのフラッシュ2灯で撮影しています。左右45度から当てると、ムダな影を消すことが出来ます。中国ビザの場合はこれに加えて、背景を白く飛ばすために電池式のクリップオンフラッシュ2灯も小さめの三脚に据えて被写体の横に置き、背景の壁に当てます。
カメラは、意図する色温度・感度・絞り・シャッタースピードでレリーズできれば何でもいいので、APS-Cサイズの一眼レフを使用します。
レンズは、広角レンズでは歪みが出やすいので90~100mmくらいの単焦点の中望遠マクロレンズを専ら使用します。経験上、広角や標準レンズより望遠系のレンズの方が、人の顔が、見た目に近い印象になります。
露出は、(外部フラッシュとカメラの露出制御は連動しないため)カメラの自動露出機能が使えないので、入射式の単体露出計でフラッシュ光を測って調節します。この入射式露出計とは、被写体位置で被写体に当たる光を測光した時、標準露出を得るには絞りまたはシャッタースピードをいくつにすればいいか、測る装置です。フラッシュの瞬間光も測れます。カメラの内蔵露出計では不可能な、多灯発光やフラッシュを複数回発光させる積算発光でも標準露出を求められます。
他に使用するアクセサリーは、カメラのレリーズ信号(ホットシューのX接点信号)をメインライトに伝える、小さな無線のトランスミッター。これで1灯発光すると、他のフラッシュはその閃光に反応して同調発光する設定となっています。
カメラは、剛性の高い三脚に固定し、手ぶれ防止のためケーブルスイッチを使用します。
席に被写体の社員を座らせ、三脚の高さを調整し、ファインダーの真ん中よりやや上に頭部が収まるように雲台を微調整します。被写体の襟や髪型に問題がある場合は、ここで整えます。
肝心の露出は、被写体(社員)の露出が絞りF9.0~10.0で標準露出となるようにメインライトの光量を調整。絞り値がF4.0など小さいと、被写体の頭部全体にピントが来ない可能性があります。シャッタースピードは、カメラの最高同調速度を越えない範囲で1/80秒など適当な設定にしておきます。1/15などあまり低速になると被写体ブレが発生したり、わずかな環境光の影響が大きくなり色温度が変わってしまいます。
中国ビザは、背景を完全な白にしなければならないので、クリップオンフラッシュで照らす背景の白い壁は、被写体の露出より2.5段以上明るくし、真っ白になるように、クリップオンフラッシュの光量を調整します。被写体の標準露出がF10.0なら、背景はF16.0以上になるようにします。クリップオンフラッシュは小さいので、たいていは1/1フルパワーか1/2の光量設定になります。
撮影時は、被写体の目にピントの山を合わせます。撮影場所を暗くしているとオートフォーカスが利かないことが多いので、マニュアルフォーカスにするかミニマグライトで被写体を照らしてオートフォーカスで合わせます。
ほとんどの人は頭の角度が水平垂直ではなく、微妙に傾斜していることが多いので、指示を出して水平垂直に合わせてもらいます。
以上が済んで撮影本番となります。
予備として±2/3段絞り(明暗)を変えた写真も撮っておきます。稀にピントがずれていたり目をつむっていることもあるので保険も兼ねます。
撮影が済んだら、PCでSDカードからデータを吸い出して、Photoshop Lightroomでフレーミングと露出を調整し、JPGデータとして解像度を変換、出力します。
それを、CorelDRAWというドローソフト上に作ってある中国ビザ専用テンプレートに写真を読み込んで配置します。このテンプレートは、サイズ・頭部の大きさをビザ写真の要求仕様に合わせやすいように、ガイドラインを引き、Lサイズの写真用紙に、顔写真4枚分の配置枠と裁断用のトンボが配置してあります。
ガイドラインの許容範囲に頭部が収まるよう、写真の大きさや位置を調整します。位置が決まったら、移動量を数値指定してコピーし、計4枚の写真データを配置します。(以下の作例ではわかりやすいように、写真の外枠を青く描画しています)
インクジェットプリンタで出力し、カッターで切り出せば完成です。
インクジェットではカラーマネジメントを使って出力する場合もありますが、最近はプリンタドライバによる自動補正の方が、見た目に近い仕上がりになります。肌色が不健康そうだったりミカンの食べ過ぎのような黄色になったり、背景のスカイブルーが灰色に転んだりしないように、注意を払ってプリントしています。撮影さえ終われば、写真出力までは15分か20分程度で済みます。
今はスマホで簡単にプロ級の撮影ができてしまう時代ですが、目的に合った完成度の高い画像を用意しようとすると目に見えない部分で準備しなければならないことが沢山あるということをご理解いただけたかと思います。そこがまた一眼レフの面白さでもあります。今回のコラムを読んで興味をもたれた方が将来の趣味の一つにと考えていただけたらカメラ愛好家の一人として嬉しい限りです。【こ】